Diario di Carta-Studio 小さな工房の日記

日々の出来事、作品作り、美術品修復に関することなどを綴ります

1週間のモヤモヤを解決したい

「弘法筆を選ばず」ということわざ。

  達人は道具や材料の良しあしは気にせず、使いこなす

  技量が優れていれば道具に左右されない

という意味。

 

このことわざ、実はずっと気になっていました。

技術が未熟であるときほど、よい道具に助けられると

言われたことがあります。

よい道具はお値段も高いことが多いけれど、

未熟であるからこそ良い品を使い、技術を磨いていきなさい

というアドバイスでした。

ということは、技術力が上がれば道具にこだわらずに

できるようになる、と言えるのでしょうか。

しかし、経験を積んでいくと使いやすい道具や材料が出てきます。

もちろん、いつもそれがあるわけではないので、その時には

そこにある物を使うわけですが、なんとなく違和感があります。

使い慣れていないだけかもしれませんが、なんでしょう。

刷毛や筆などでは、毛先の柔らかさとか糊の含み方とか…。

うまく言えないのですが、微妙に違うんですよね。

おそらく、毛質や毛量などいろいろ理由があると思います。

 

「弘法筆を選ばず」の考え方で言えば、こんな些細な事を

理由にうまくいかなかったと言ってはいけない、ということに

なるのでしょう。

道具のせいでうまくできなかったというつもりはないけれど、

何となくは仕上がっても、使いにくいなあと思って

しまうんですよね。

 

そこでちょっと調べてみたら、

実は、弘法も筆を選んでいた、ということを知りました。

『性霊集』という弘法大師漢詩集の中で

「良工まずその刀を効くし、能書は必ず好筆を用う」

と言っているそうです。

「腕のあるよい職人はまず何よりも先に道具を研ぎ、

優れた書家は必ず良い筆を使用する」

という意味らしいです。

 

「道具を大事にして、よい道具を使用する」という考えは

とてもよく理解できます。

よい道具は、自分になじむように大事に手入れをしますし、

大事にしたものはよい道具になっていく気がします。

 

ことわざには戒めというか気をつけなさいということを

表していることが多いと思うのですが、

うまくいかないことを道具のせいにせず、努力しなさいという

意味だと捉え、道具に大事にしながら技術を磨いていきます。

 

あ~、なんだかすっきりしました。

何が気になるのかは人それぞれですが、

「何を使っても一緒でしょ?」と

その違いを理解せずに使う作業人にならないように

したいと思います。

違いを理解したうえで、異なる用途でも使用できるものを

選ぶことは大事だと思っています。

基本がわかっていれば応用ができますが、

基本がないのにアレンジしてしまうのはちょっと

違うのかなあ、とモヤモヤしていた1週間でした。

あくまでも道具についてですけれど。

 

 

表具用の刷毛。

修復でも使います。