Diario di Carta-Studio 小さな工房の日記

日々の出来事、作品作り、美術品修復に関することなどを綴ります

以前の仕事を思い出す(in エストニア)

急に昔の仕事の振り返ろうと思ったわけではないのですが、

少し思い出話です。

 

私のメインのお仕事は、紙を使用した美術品や記録資料(史料)の

保存修復ですが、西洋の紙と東洋の紙が異なるように、修復技術も

異なるものがあります。

異なるとはいっても、それぞれの紙にや使用されている画材に合っ

た技術を用いるので、結果として大きく異なることはありません。

どの方法を選択するかというだけです。

西洋、東洋の技術にかかわらず、必要とされる知識や技術を身につ

ける必要があることは、どの職業でも同じだと思います。

 

そのような中で、日本の修復技術を知りたいという問い合わせが

時々あります。

それが、「かりばり板を使用する方法」です。

このブログでもたまに登場していますが、「かりばり板」は日本の

表具の技術で欠かせない道具です。

表面に柿渋を塗り、耐水性を持たせ、裏打ちした作品を板に貼り、

引っ張りながら乾燥させる道具になります。

柿渋の効果で、周辺に糊を塗っても乾燥後は剝がすことが可能にな

り、何度でも使用することができる優れものです。

柿渋の効果としては、耐水性だけでなく、防カビ・防腐・防虫効果

もあるそうです。

 

私のかりばり板。すべて手作り。

現在は今年作成した2枚が追加されています。

 

このかりばり板の使用方法は、西洋ではあまり知られていません

でした。

今から20年近く前になるのでしょうか、国際ワークショップで紹

介されて西洋でも多くの方に知られるようになったと思われます。

もちろん、表具の技術を学びに来ている方々はもっと早くから知っ

ていたと思うのですが、広く知られるようになったのはこのころ

だと思います。

はっきりしたことが分からないので、調べてみようと思います。

 

それはさておき、このかりばり板の使い方を教えてほしいという

ご依頼でエストニアを訪問したのが、2016年のことです。

英語がおぼつかないのですが、エストニアに行く前にも2回ほど

海外でかりばり板のワークショップをやっていたこともあり、

説明だけはできるということで行ってきました。

エストニアという国は全くなじみがなく、依頼があってあらため

て地図を見てバルト三国の一つだと思い出すくらいでした。

実際、フィンランドとはフィンランド湾を挟んでいますがそれほ

ど遠い場所ではありません。

東側の国境はロシアと接していることもあり、ロシアの影響は

かなり感じました。

歴史的にも1991年にロシアから独立回復を宣言するまでロシアの

影響下にあったので、それが街に残っているのも当然だと思われ

ます。

ある美術館に行った時も、学芸員さんと話したらここの展示方法は

ロシア方式なので日本とは違うかもしれない、と言われました。

英語力のなさから、どこがどう違うのか、聞き取りがうまくできず

照明が異なるということ以外よくわからなくて、今思えばもっと

詳しく聞いておけばいろいろ比較できたのにと悔しい気持ちでいっ

ぱいです。

もちろん、今はまた変更していることもあると思いますし、当時も

すべてがロシア方式ということではなかったと思うのですが、保存

や修復の知識や技術はロシアで勉強をしたことが多く、西側の方法

も勉強している最中だとワークショップに参加していた方から聞き

ました。

どちらがいいか悪いかということではなく、文化に大きく影響を

与えていたということが分かります。

 

私はほんの数日しかいませんでしたが、きれいな街、というか、

かわいい街という印象でした。素敵な美術品もありました。

 

 

冬はとても寒くなるようで、寒いのが苦手な私にはこれからの

季節は旅行に行くのは寒すぎて行けなそうですが、いつか時間を

作って旅行できたらと思います。