Diario di Carta-Studio 小さな工房の日記

日々の出来事、作品作り、美術品修復に関することなどを綴ります

「江戸絵画お絵かき教室」展(府中市美術館)に行ってきました①

 現在、府中市美術館で開催中の「江戸絵画お絵かき教室」展を見に行きました。

 展覧会のタイトルを見た時、江戸絵画のお絵かき教室とは何だろうと考えて

いましたが、実際に展覧会に行き、展覧会のタイトルが意味していたことが

分かりました。

 展示内容は大きく四つに分けられていました。

 1 四大テーマに挑戦

 2 画材・技法・表具

 3 江戸時代の画家はどうやって学んだのか

 4 江戸絵画はヒントの宝庫

 

 1の四大テーマに挑戦では、絵の描き方についての展示が行われていました。

 長沢蘆雪の雀の描かれた作品(「雀図扇面」、「藤花雀図」、「長春花小禽

図」など)が展示され、雀がどのように描かれているのか、何色が使われている

か、雀の特徴(お腹の丸みや目の表情など)の解説、どういう手順で描くのかと

いうことを説明したパネルがありました。

 同じように丸山応挙の「狗子図屛風」、「遊狗子図」、「雪中狗子図」に描か

れた犬についても解説されていました。応挙の犬はかわいいので、描けるように

なったら嬉しい。

 さらに、鍬形恵斎の鳥獣略画式という作品は、江戸時代の教則本で動物をデフォ

ルメしたような絵のお手本本です。書籍になっていたものを一枚ずつにして展示さ

れていました。

 本の形態のままだと展示すると開いたところしか見えなくなってしまうので、数

ページ見せたい場合は、本を解体する必要があります。和装本は解体しやすく綴じ

直しもしやすいので展示には向いているかもしれません。

 以前、挿絵を展示する展覧会のお手伝いをした時は、洋書の一葉を展示するため

本の解体と綴じ直しを行いましたが、背の接着剤をとったり、折丁の形を整えたり

と作業に時間がかかりました。和装本でも種類によって手数がかかる綴じ方もあり

ますが、洋装本よりシンプルな気がします。

 恥ずかしながら私は鍬形恵斎という画家を知らなかったので、とても興味深く見

ることができました。

 鍬形惠斎は、江戸時代中期の浮世絵師で、31歳の時に津山藩の御用絵師となった

人です。略画式という絵本を描き、この展覧会で展示されている鳥獣略画式という

作品もあります。ちなみに略画式とは、簡単な描線で描かれたスケッチ風の表現技

法のことだそうです。略画式は漫画の起源ともいわれるようで、

 

「古くは鎌倉時代の代表的な絵巻物である鳥羽僧正【とばそうじょう】 「鳥獣人物

戯画」に、また享保年間には大坂で、大岡春卜【ぼく】『鳥羽絵【とばえ】三国志

 竹原春潮斎『鳥羽絵欠【あく】び留【どめ】』などのいわゆる 「鳥羽絵本」の刊行

が始まり、大衆に広まっていった。さらに安永九年(1780)には、その流れをくんだ

耳鳥斎【じちょうさい】が 『絵本水也空【みずやそら】』を刊行した。寛政七年

(1795)に、鍬形恵斎【くわがた・けいさい】によって 『略画式』が描かれ、

これを契機に人物・鳥獣・山水・草花・魚貝などの略画式へと分化がなされ、

「略画式の恵斎」の異名をとることになった。」(福岡大学図書館ホームページより引用)

鍬形恵斎(福岡大学図書館) (fukuoka-u.ac.jp)

 ちなみに「鳥獣略画式」は、2019年に切手のデザインとしても採用されているよう

です。

 耳鳥斎の『絵本水や空』も展示されています。

 こうした絵画の描き方の展示の後に、技法や材料についての

展示が始まりました。和紙、岩絵の具、筆に関する情報や技法(付け立て、たらし

込み、筋目描き)の解説がその技法を使って描かれた作品とともに展示されていて、

とても分かりやすかったです。

 裏彩色という絹に描く時の技法のひとつですが、これはサンプルも展示されていて

より分かりやすくする工夫がされていました。

こうした技法の練習は学生の頃にしていたので、写真や本の説明だけでも今は分かる

ようになりましたが、勉強を始めた頃は文章を読んだだけでは分からず、とにかく試

して体で覚えるようにしていました。体験するとわかりやすいんですよね。

 この展示スペースの最後に剥がした後の裏打ち紙が、作品とともに飾られていまし

た。剥がした紙も仕立てられていて、ここまできれいに剥がせる裏打ちは、糊加減が

よかったんだなあと変なところで感心してしまいました。

 ここで部屋がかわり、表具の説明になりました。

 技法、表具の展示は知っていることも多いため、作品の表装裂や表具の形式などに

注目してみていました。残念なことに展覧会の図録には仕立てられた作品の写真はな

いことが多いので、作品を見るときはできるだけ表装をよく見るようにしています。

実際、今回の図録にも表装された作品の画像はありませんでした…。

 

 少し前に『美術を書く』という本を読んだこともあり、展覧会の感想をしっかり書い

てみようと展覧会の内容を振り返りつつ、画家を調べたりしていたらなかなかの長文に

なってきましたので、

3 江戸時代の画家はどうやって学んだのか、

4 江戸絵画はヒントの宝庫

の感想は次回にします。展覧会は展示替えもありますが、5月7日まで開催中です。

 

桜もきれいでした