Diario di Carta-Studio 小さな工房の日記

日々の出来事、作品作り、美術品修復に関することなどを綴ります

保存額装の目的

先日、ゴッホの「ひまわり」にトマトスープがかけられた事件が

あったばかりなのに今日は、モネの「積みわら」にマッシュポテトが

投げつけられたというニュースがはいってきました。

今度はモネの《積みわら》。またも名画が環境活動団体の被害に(美術手帖) - Yahoo!ニュース

今年は、5月に「モナリザ」にケーキが投げつけられたり、

7月に「プリマヴェーラ」に接着剤が付けられたり(正確には接着剤の

ついた手で作品を覆っていた保護板に触ったためですが)

想像を絶することが起きています。

環境問題と絵画作品を結びつける意味が私には理解できないので、

それについて何かを言うつもりはありませんが、美術品を修復する立場

としては、怒りしかありません。

 

作品を長く保存することの大変さを考えていないだけでなく

最も腹立たしいのは作品を尊重する気持ちがないことです。

今回不幸な事件に巻き込まれた作品は、作品の前に保護板があり

作品そのものに被害はなかったということですが、それは作品の保護が

しっかりなされていたからという結果論にしかすぎません。

 

名画と言われる作品や国宝や重要文化財に指定されたもの以外にも

当然たくさんの作品があります。

それらの作品を長く良い状態で保存するお手伝いをすることが

自分の仕事ですが、その際に保管環境以外にも展示方法も考慮する

必要があります。

版画などのシート状の紙作品の場合、額装をすることがほとんどです。

もちろん、額に納めずにマッティングだけしておくこともシートのまま

保存容器に収めておくことなどもあります。

 

今回は、「保存額装」についてお話をしたいと思います。

そもそも「保存額装」とは、

  物理的に弱い紙資料・紙を基底材とする絵画作品、写真 、布などを、

 資料や作品に悪影響を与えない材料や技法で額装し、資料の保存を

 行いながら、その公開や展示を果たす方法

のことです。

額装における問題点として、質の悪い材料の使用(例えば酸性紙など)、

紫外線の影響による変色、退色、汚染ガスの発生による作品へのダメージ

などがあげられます。

これらの発生をできる限り減らすことが保存額装の目的と言えます。

 

作品を額に納める際、作品を上下に挟んで保護するマットボードと

マウントボードを使用します。これは、窓マットと台紙マットなどと

呼ぶこともあります。

画像の矢印の部分。これがマットボード。下に台紙マットがあります。

保存額装では、安全な材料、安全な方法であることが大事なので、

材質に問題がなければ大きさや色などは作品に合わせて作ります。

画像はたまたま白いマットですが、白である必要はありません。

作品をよりきれいに見せるためのものなので、作品を活かすものを

作ります。

マットの大きさや色の違いで作品の見え方は大きく異なります。

 

さらに作品を台紙に固定する方法も安全な方法をとらなければいけません。

保存額装では、和紙を使用した固定方法がとられます。粘着テープは

時間が経つと作品に粘着剤の染みがつく恐れもあり、また作品の固定を

はずす必要がある場合に作品を傷める可能性があるからです。

見えにくいですが、和紙が貼ってあります。

どちらも作品の裏面に和紙を貼り、台紙に固定しています。

固定方法はこの二つ以外にもありますが、これらが

一般的です。(T-ヒンジとV-ヒンジ)

 

こうしてマットに固定された作品を額に納めます。

額も様々な種類があります。

保護板にはガラスやアクリルが使われています。

地震の多い日本では、アクリルの方が安全な気がしますが、

静電気の発生などアクリルにも課題はあります。

作品に応じて、作品の展示環境、保管環境によって考える

必要があります。

いずれにしても、保護板があることで作品に直接触れることを

避けられます。

 

額の一番後ろには裏板(ダストカバー)があります。

基本的に、ベニヤ板などの酸性物質を多く含むものは使用しません。

その他には、額の厚さ(深さ)によって中性のボードを使用し

厚さを調整していきます。

画像は、作品を固定したマットボードとマウントボードのほか

フォームボードやコルゲートボードを使用した例です。

額の中には、ボードがたくさん入っています。

 

段ボール紙を何枚も重ねて入れてあるものの額装改善を

依頼されたことがあります。

段ボール素材は、変色をまねいたり、湿度を吸収しやすいため

作品の環境を高湿度に保ってしまう可能性があります。

そのため、作品の変色や波うちなど作品の劣化の原因になります。

 

作品を安全に長く保存できるように、今後もお手伝いしていきたいと

思います。