修復作業って何をすることなのか
何をしているのか
あまり説明をせず、日々の作業についてお話している
だけだったことに気がつきました。
あらためて、修復作業ってなにをするのかお話しします。
写真は、大学で教材としているものや修復説明用に処置した
サンプル資料の画像を使用しています。
私は、紙作品(紙資料)つまり、紙を使用しているモノを
専門に修復をしていますが、
布(クロス装の本など)や革(革装の本など)羊皮紙も
修復対象です。
紙の修復処置の中で一番わかりやすいのは、
虫によって穴が開いてしまった紙の修復でしょうか。
処置前
処置後
うっすらと和紙が見えるでしょうか?
和紙を虫穴の形に合わせて切り、資料の裏から
貼っています。
紙作品、紙資料の修復には、和紙を使用します。
これは、日本にかかわらず海外の紙の修復家も
同じです。
虫穴を埋めるほか、作品の補強をする「裏打ち」
という作業にも和紙を使用します。
この「裏打ち」という処置は損傷のある作品や資料
だけでなく、新しく和紙に描かれた絵や和紙に書か
れた書などの補強にも行います。
裏打ち後仮張り板に貼って乾燥中
写真がぼけています…。
裏打ち後は、作品にもよりますが、仮張り板に貼り
作品を引っ張りながら乾燥させます。
こうした技術は、表装の分野から伝わった技術です。
紙の修復に携わる者は、こうした伝統技術だけでなく
新しい修復技術や知識も必要となっています。
新しいと言っても、私が修復にかかわった20年前頃には
すでに基本は出来上がっています。
新しい技術というと、
酸性紙に対する中和処置(脱酸性化処置)が代表的な
作業と言えるかもしれません。
紙は、極端な酸性であると、そのままでは長期保存が
難しいため、アルカリ性の液体に浸したり、スプレーしたり
して紙の中の酸性物質を中和します。
もちろん、この使用する液体が紙や描かれた色材に影響を
与えないかしっかりとテストをする必要があります。
紙についたしみなどを取るために染み抜きや漂白という処置を
行うこともあります。
処置前
処置後
ただし、これらはしみの原因を根本から取り除かない限り
再発の可能性はありますし、完全な除去はできません。
あまり強い薬品を使用して、紙の繊維を傷めてしまう危険性
もあります。そのため、本当に必要な処置なのか、作品・
資料に対して今よりもダメージを与えることはないのか、
確認する必要があります。
こうした処置のほか
作品の水洗い、紙の波うちや丸まってしまった作品をまっすぐに
するなども行います
長く丸まっていた作品
処置後
また、書籍の修復をするにあたり、本の構造を知る
ために、歴史製本を学び、自分でも綴じる(作る)ことが
できるようにしています。
これは、書籍の修復を学ぶにあたり、先生からも
言われたことです。
構造を知らずに直すことと構造を知って必要なところを
直すことは違うことだ、と。
和書の綴じ方いろいろ
トスカーナ製本
羊皮紙の処置もします。
羊皮紙に書かれた楽譜
処置後
ブログの中でたびたび話しているマッティング作業は
修復というより保存処置です。
修復したものも、修復の必要がないものも
より長く良い状態を保つことができるようにしておく
ことは大事です。
保存容器に入れたり、マッティングをしたりして、
作品を安全に取り扱えるようにしておくことが必要です。
保存用ファイル
中性紙ボードで作るマット
「壊れたものを直す」よりも「壊れないように予防する」
という考えで今の保存修復家は仕事をしています。
もちろん、壊れたものに対する手当は行ったうえで、です。
そのために保存環境のアドバイスも行っています。
ここで説明していない作業もまだありますが、それはまた今後の
ブログ内でお話したいと思います。
少しでも保存修復作業について知ってもらえたらうれしく思います。